詩を読むような僕の独り学

近畿大学の図書館司書課程の学習記録ほか

5701 生涯学習概論 レポート

【設題】ポール・ラングランの生涯教育理論が我が国の施策に及ぼした影響について述べてください。
【字数指定 2000字(増減100字以内)】

1 はじめに
 生涯教育の考え方が世界的に議論の対象となったのは、1965年12月のユネスコ第3回成人教育推進国際委員会でポール・ラングランが発表した『生涯教育について』が契機であった。
 日本においても、ラングランの理念が紹介されたのを皮切りに、各種審議会の答申を重ね、生涯学習推進のための体制づくりが行われた。
 本レポートでは、この過程を中心に論じる。

2 ポール・ラングランの生涯教育理論
 ラングランは1960年に発表した『生涯教育について』において、生涯教育の意義は「教育の年齢及び教育方法・内容などの統一・綜合」にあると述べた。教育は幼児期の家庭教育や青少年期の学校教育等で停止するのではなく、「個人の生涯にわたる教育機会と、社会の教育機会を統合する」[1]のが重要ということである。
 ラングランは、生涯教育が必要な理由を「激しい社会の変化」への対応策だと述べている。この理論が発表された1960年代は、技術革新、情報化社会への移行といった変動の中にあった。人類は社会の変化に柔軟に適応できる「新たな能力」を獲得しなければならず、また、これを得るために従来の教育制度に変わる新しい制度が必要とされた。こうした背景があり、生涯にわたり学習を継続する「生涯教育」が考え出された。
 ラングランの提起した「生涯教育」は世界的に注目されたが、一方で、特に発展途上国は学校教育や識字教育が先決問題の時代であったため、彼の考え方はヨーロッパ(先進国)中心の傾向であり、余りにも高い理念だという批判を受けた。
 そこで、これを補完・具体化させる提案として、OECD(経済協力開発機構)のリカレント教育や、ユネスコのジェルピの生涯教育論が後に発表された。

3 ポール・ラングランの生涯教育理論が我が国の施策に及ぼした影響
 日本では、前述のユネスコ第3回成人教育推進国際委員会(1965年)に出席した波多野完治が、1967年に、ラングランの理論を翻訳して「生涯教育」の考え方を紹介したことが、教育改革の議論の始まりとなった。
 当時の日本は、高度経済成長政策により産業構造が変化し、必要とされる知識や技能も進化していた。それに伴い公害等の問題が深刻化しており、個人レベルの努力ではこれらに対応しきれなくなっていた。
 こうした背景があり、国民生活審議会は1970年に『成長発展する経済社会のもとで、健全な国民生活を確保する方策に関する答申』を発表した。その中で、変化に対する方策として、能力の開発、向上の場の確保を挙げるとともに、それを実現する制度の整備は企業や政府双方の課題であるとし、経済と教育の関係を述べている。日本では、社会問題への対応策として生涯教育が受け入れられ始めたが、特に産業界を中心に反応をあらわしたことが特徴的であった。
 1971年には、中央教育審議会及び社会教育審議会が、生涯教育に関する答申をそれぞれ発表する。二つの答申の共通点としては、従来の学校教育中心の教育制度を反省し、社会構造の変化に対応するためには、家庭教育及び学校教育を充実させ、そこに社会教育を含めた三つの教育の有機的統合が重要だと述べたこと、さらに、生涯教育理念導入の必要性を強調したことが挙げられる。
 しかし、当時は、不安定な社会情勢や教育政策をめぐる対立構造もあり、生涯教育施策の具体的議論には至らなかった。
 生涯教育が実現に向け検討され始めるのは、1981年の中央教育審議会の答申『生涯教育について』においてである。この中で「生涯学習」は「各人が自発的意思に基づき、生涯を通じて行う学習」と定義され、それを支援する教育機能を整備・充実させることが生涯教育の理念であるとされた。
 人の一生に関わる生涯教育は、文部大臣の所轄ばかりでなく、広い分野で検討される必要がある。そこで、内閣総理大臣の諮問機関として、1984年から1987年まで臨時教育審議会が設置され、教育改革をテーマに第一次から第四次答申までを行った。その特徴は、「生涯学習体系への移行」を提案した点にある。また、1986年の第二次答申に「生涯学習」の考え方が大きく取り上げられた。
臨時教育審議会の提言した、生涯学習体制の整備としての「家庭・学校・社会の諸機能の活性化と連携」[2]を実現するため、政府は1987年に教育改革推進大綱を決定した。1988年には機構改革を行い、文部省に生涯学習局が発足する。これにより、全国的に生涯学習行政が推進された。
 1990年1月、中央教育審議会が『生涯学習の基礎整備について』を発表した。この答申を受け、同7月、生涯学習振興法が施行された。この中では、生涯学習振興のための都道府県の事業、地域の生涯学習振興基本構想の実施、生涯学習審議会の設置について定められた。

4 まとめ
 現代では社会の変化は加速しており、個人や社会の多様な要求に応えるものとして、ますます生涯教育が必要となっている。生涯教育は、従来の教育の在り方を批判する考えから成り立った。これからもこの精神を忘れず、将来的な変化も予測して教育制度全体を充実させることは勿論、学習者自身が各自の学びに対する問題提起をし続けることが重要だと考える。


引用文献
[1] 坂井 暉(2012)『生涯学習概論』近畿大学情報教育部, P.11
[2] 坂井 暉(2012)『生涯学習概論』近畿大学情報教育部, P.31

参考文献
坂井 暉(2012)『生涯学習概論』近畿大学情報教育部

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webで提出してすぐに返却されました。ありがたいです。
どの科目から学習するかに決まりはありませんが、個人的には一発目をこれにしたおかげで早々に挫折しそうになりました…。
テキストはわかりやすく書かれていて、終わってみればそんなに難しいことはなかったのですが、言葉くらいしか知らなかった「生涯学習」の概念についていきなり掘り下げねばならないのがしんどかったです。知識があれば問題ないと思いますが、私のような本当の初心者は、とっつきやすい図書館概論あたりから始めた方がいいのかもしれません。

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